ときをとめて
身近な死を見守ることほど辛いものはないだろう。
ただの職場の人間の私が今これだけ切ない気分になるのだから
ご家族の気持ちなんて想像もできない。
そう思うと、看護師の妹はすごいなぁと思ったりもする。
そういった場面をお世話しているんだもんなぁ。
私はともかく、母が心配だ。
母の仕事の上司というか、師匠というか…
神かってぐらい、今の仕事について作り上げてきた歴史がある。
病院に数名で見舞へ行って、帰ろうとしたときに呼び止められたそうだ。
そこで初めて握手をしたらしい。
最初で最後、だと思うと母がこぼしていた。
あー切ない。
「長生きをしてほしいと毎日祈っているけれど、痩せていく彼を見て果たして正しい祈りかどうかと思ってしまう」
「今は、すこしでも痛みが和らいで穏やかに過ごせるようにと祈っている」
ほんとにもう。
どうすることもできない。
生きていてほしい…苦しみもがき続けさせてでも…なんて見ていられない。
残されている時間があと3日なのか、1日なのか…あと数分なのか。
見えない砂時計の砂が落ちる音を聞きながら、さよならの準備をしなくてはいけない。
母はきっと気になって仕方がないだろう。
でも仕事の成果をあげて、安心してもらえるような報告ができるようになったら
それを知らせに行くんだと。
だからそれまで頑張っていてほしいと。
母はまだまださよならの準備ができないだろう。
私もおじいさま方に可愛がられているが、それは母譲りのようだ。
みんなに一日でも元気でいてほしいと思う。
心を尽くして、そう思う。